そして歴史は繰り返す

・発売前、二人の部長

開発部部長の那須は会社の自分のオフィスでシャーペンの芯を出し入れして遊んでいた

「那須部長、少し宜しいですか?」
「ちょ!?木曜部長!?私何もしてないじゃないですか!!」
「今日は少し貴方の部下に関してお話が有るのですかよろしいでしょうか?」
「部下?」
「貴方の部下の開発部薬品課長の」
「知らないですよ、そんな奴」
「でしょうね、まぁ兎に角彼が作った薬品なのですが・・・企画書類を見て貰って良いですか?」

木曜は書類を那須に渡した

「構いませんよ」

那須は書類を読んだ

企画名
プロジェクト・アイアンメイデン
木曜注釈:やや重過ぎる名前です、商品化の際にこの名前は没になるでしょう

企画概要
開発したほぼ無色の無味無臭の性欲根絶薬を販売しようと思います
ターゲットはアイドル事務所や親御さんで彼等の所有物の子供やアイドルに盛らせて
勉強や仕事に集中させる、と言う物です

木曜注釈:盛らせるってかなり違法色強く無いですか?そもそもアイドルの性欲根絶は問題が有ると提言します

我が社で既に発売されている『希望一筋』との差異は希望一筋は生殖機能のみの消失で
性行為での快楽や性欲はそのまま、妊娠と言う危険を無くした『性のホビー化』と言うコンセプトですが
この企画は性欲を無くし遊びを無くすことでの学業や仕事を優先させると『親の性と言う玩具の取り上げ』がコンセプトです
更に希望一筋は非常に高価ですがこちらの薬品は製造に20万円程度しかかかりません、量産体制を確立すればもっと安価になります

木曜注釈:子供が心配なら寄宿舎とか全寮制の男子校とか女子校に通わせろよと思うのは私だけでしょうか?
と言うか20万、いや利益含めたら40万程度でしょうか、そんなに払う位なら塾などに注ぎ込めば良いのに

「木曜部長にしては辛口で辛辣過ぎませんか?」

書類の冒頭数行を読んだ時点で読むのを止めて、顔を上げた

「正直言うとそうしろと言う命令も入っているのです」
「命令ですか、そうですか」

彼に命令出来る立場の人間はそう多くない、恐らく上層部の誰かであろう、そんな連中の事など興味の無い那須は軽く流した

「でも何の問題が有るんですか?希望一筋とは客層は違うのだから食い合いも起こらない筈では?」
「『これは飲む性欲ロボトミーでは無いか』と言うのが問題だと彼の方は言ってました」
「ろぼとみー?」
「知りませんか?平たく言うと脳をぶった切って精神疾患を治そうと言う術式なのですが」
「何それ恐い、神に関係無い物には大して興味無いですので・・・ん?ひょっとしてこの薬って解毒薬は」
「無いです」
「え・・・希望一筋にも更に金かかるが効果を消す薬が有る筈ですよ?」
「希望一筋は生殖機能、この薬は性欲を奪う、効果が違う故に解除する方法も違う」
「・・・不可逆変化は不味いんじゃないですか?孫の顔が見たい親も居る筈ですよ」
「人工授精とかが有るじゃないですか、まぁ彼の方が気にしているのはそんな事じゃなくてロボトミーだと言う事に危惧しているのです」

木曜が顔を伏した

「ロボトミーだと何か問題でも?」
「命令したのはM氏です」
「それが?」
「・・・・・すみません、貴方はロボトミーを知らないのでしたね」
「・・・なるほど、読めましたよ、貴方が何でここに来たのか」
「はい?」
「貴方はこれの解毒薬を私に作って欲しい、違いますか」
「違います、私はこの企画をつい先ほど初めて聞いたのですが、部長の貴方は何をしていたのですか?」

若干の怒気を孕んだ声で木曜は言葉を発した

「研究です・・・」
「確かに貴方は研究員、研究も大事です、ですが部長で有る貴方には部下の管理もしなくてはなりません
こういう倫理と密接な云々は面倒だから企画通す前に私に連絡しろとあれほど言ったじゃないですか
そもそも開発部の開発費やら何やらを見直しましたが貴方が碌に審査せずにただ適当に丸投げしたせいで過剰な支払いが・・・」

その後、夜が更けるまで木曜部長の話は続いた

・発売後、MIKE会談

都内某料亭にて四人の男女が集まった

「えー、今日は忙しい中良くお集まりになって下さいました、有難う御座います」

何処かで見た様な顔の男が音頭を取った

「いえいえ、我等は御二方の御先祖様が居なかったら唯の夢想家の集団です」

何処と無く優し気な男が頭を下げた

「それで本日は御二方が連名にて我々を呼んだ訳ですが、如何言ったご用件でしょうか」

冷たい印象の少女が口を開いた

「えー・・・とですね」

男は横に居る着物の女性に眼を移した

「私は後で言うから飯國さんお先に」
「すみません、後この会合中はIでお願いします、Eさん」
「めんどくさ・・・」

つまらなそうに女性は眼を逸らした

「実は貴方達が発売した、ブループロミスに付いて少々問題が発生しまして、政府内でも議論になっています」
「プループロミス・・・あの性欲ロボトミーですか」
「我が社が自信を持って発売した商品に何か?」
「あ・・・そのですね・・・」

少女は飯國に鋭い視線を送っている、名目上は自分はこの少女と男を呼べる立場だが
実際は彼女達の機嫌を損ねれば私の政治生命は終わってしまう、そう覚悟しながら飯國は口を開いた

「実は、こんな物が出回って居まして・・・」

飯國は持参したノートパソコンを開き少女に渡した
画面に表示されているのはフォルダを開く

「・・・音声データとWebページのコピー、天下の日本国政府ともあろう方々が匿名の情報を信用すると?」
「い、いえ、ですが内容が内容なだけに・・・」
「ま、まぁ待てよK、とりあえず内容を確かめようじゃないか」
「Mがそう言うのなら・・・」

Mの仲裁の下、パソコンのデータを見る事にした

「Webページコピーはブループロミスのバッシングですね」
「唯のバッシングじゃない、未来からのメッセージが切欠になっているんです」
「Pastfonですか、しかしアレは偽証の危険が有りますよ」
「真実か如何かは問題じゃない、要は信じる人の多寡の問題なのです」
「・・・音声データは何ですか?」
「Pastfonから送られた未来からのメッセージだ、大分バリエーション有るみたいだ」
「聞いても?」
「どうぞ」

飯國からヘッドホンを渡されたKは音声データを聞き始めた
内容は言い回しなど微妙な違いは有れどブループロミスを作らないでほしいと言う音声だった

「・・・・・・・・・・」

Kはヘッドホンを外した

「なるほど、ですがこの程度の事で政府が動くのは如何かと」
「いや政府は結構危惧しているんだ、考えてもみたまえこの国は少子化が叫ばれている
子供を作って貰わなければ困る、しかもこの薬を使われるのはアイドルや勉学熱心な学生、つまり優秀な人材だと言う事だ」
「少子化が進んでいるのは経済悪化が原因でしょう、それを私達に責任転嫁するのは如何かと思います
我が社には子育ての為の整備などを充実させていますので子持ちの社員は結構多いのです」
「い、いやしかし」
「それに中絶は立派な権利の一つだし、強制的に子を産ませると言うのは如何かと思います
かつてのルーマニアの馬鹿が決めた悪法は御存じの筈」
「いや私は別に強制的に子供を作れと言っている訳では」
「飯國さん、そこまで、アンタじゃKに言い負かされるのは目に見えてる」
「Eさん・・・」

Eが飯國を制しKを見据える

「私が知りたいのは一つだけだ、ブループロミスには解毒する方法は無いのか?」
「御座いません」
「・・・・・」

Eは険しい顔で顔を伏せた

「何か問題でも?」
「大アリだ、飼い犬に手を咬まれた馬鹿が私に泣きついて来たんだ」
「えーっと・・・如何言う事ですか?」
「飯國さん、実はですね、枕営業を強要されたアイドルが営業先でブループロミスを盛ったと言う訳です」
「えぇ!?」
「何処で入手したのかは分からない、実際マイク側は情報開示しないだろ?」
「ええ、情報を開示した所で枕営業なんて馬鹿げた事を考える方の性欲は戻らないでしょう」
「私も馬鹿な奴だと思っているがそれなりに影響力の有る馬鹿だからな、如何にか出来ないか?」
「・・・・・予算と時間さえ有れば可能です、その馬鹿の方の連絡先をお伺いしても」
「ああ、これだ」

EはメモをKに渡した

「確かに、では申し訳有りませんが、もう時間が無いので今日はもう帰らせて頂きます、行くぞM」
「あ、ああ、では御二方、本日は有難う御座いました」
「いえいえ、私もお時間取らせて申し訳有りません」
「早く何とかしろよ」

MとKはその場から立ち去った

「M、IT課の最初にPastfonの通信でブループロミス絡みの件を聞いた奴を調べろ」
「え、何でだ?」
「音声データの中でその時の通信の音声が外に漏れてる、恐らくは奴が漏らした」
「有り得ない、ソイツには女房と子供が居るんだぞ?何でそんな事する」
「さぁな、知るかそんな事」

・諫死

妻と子よ、すまない
妻よ、私の財産の全ては君に名義変更して置いた
子よ、私の我儘で辛い思いをさせてしまってすまない、これは君の為なんだ

私は聞いてしまった未来からの助けを呼ぶ声を
ブループロミスを作った者達はそれをデタラメだと信じていないが情報を扱う私にはどうしても嘘に聞こえなかった
未来を救う為に私はあの声を録音しネット上に挙げた
これだけでも重大な社則違反だ、どんな制裁を受けるかは想像に難しくない

ブループロミスを使って子供の未来を自分の思い通りにしたいと言う親の気持ちは分からなくは無い
だが私も子供の未来を守りたかったんだ
子供が大人になった時に周囲の人間が皆、愛を知らない者達
そんな絶望を味わせたくなかった

妻よ、私達の子がもし誰かを好きになって勉学に集中出来なくなったとしても
ブループロミスを使わないでくれ、話し合ってくれ
私が言えた義理ではないが親の務めを果たしてくれ、薬では無く言葉と愛を使って
一人の親として子を止めて欲しい

最後にマイク・エンターテイメントの方々に申し上げる
どうかブループロミスを販売中止にして下さい、お願いします

どうか子から未来を買い取らないで下さい

都内ホテルで見つかった首吊り死体が書き残した遺書と思われる文書より抜粋

・とある金髪の娘の話

「食レポっすかぁ!?」
「え、ええそうよ万丈」

彼女の名前は万丈理璃、落ち目のアイドルである
まぁ大して歌も踊りも下手な彼女にとってそれ位しか芸風に出来る物が無いのだが
依頼される仕事もタレントや芸人の域である、しかし最近仕事が増えた、主に食事関連

「うっひょーいお腹空かせて行きますね!!」
「仕事熱心で何よりね、それじゃあ」
「あ、そうだジャーマネ、あの件如何なった?」
「あの件って?」
「恋愛しないからブループロミス分の48万を私にくれるって話」
「心配しなくてもアンタにそんな金元々使うつもりは無い」
「えぇー・・・最近仕事増えたぜー?」
「最近食事を取るアイドル減ったから、食レポやる奴少なくなって来てるだけで
新人来たら一気に元通りになるから安心して」
「何だそりゃ、ダイエットブーム再来?」
「違うわよ、ブループロミスを盛られるんじゃないっかて不安になっている娘が多くて」
「贅沢だな・・・仕事干されるぜ?」
「二流以下なら兎も角トップクラスのアイドルまでやりだして、業界の空気がどんどん悪くなっていくのよ」
「ふーん、まぁ三流の木っ端アイドルの私にとっては関係無い話だな
いっそ恋愛しなかったらその分報奨金払うとかで良いだろ
今まで禁止で罰金払えとか聞いたけど逆は聞かないし、案外上手く行くかも」
「馬鹿馬鹿しい!!全く何で小娘の我儘こっちが聞かないといけないのよ!!
売れているからって事務所とアイドルの信頼関係を乱す様な事したら下まで真似するじゃない!!
アンタだってそう思うでしょ!?」
「いや、私は単純な雇用契約で結ばれてるだけだから信頼とか関係無いぜ?」
「ああヤダヤダ!!金ばっかりに目が眩んでいる守銭奴は!!」
「・・・・・・・」
「何よ急に黙って・・・」

万丈は俯きながら泣きじゃくっていた

「どぼじでぞん"な"ごどい"う"の"ぉっぉぉぉ!!」
「え、いや、なに?」
「びどい"よ"お!!!!」

万丈は走って逃げてしまった
後日このマネージャーから侮辱されたと万丈は告訴し示談金を払って貰ったらしい

・課長は無断早退した

「万丈がマネージャーを告訴、か」
「あのアイドルの?アイツにそんな複雑な事出来るとは思えないんだけど」

神無月が旨味と共に社内のカフェテリアで一息ついていた

「まぁマイク商品PVとはマイク商品販促番組とかなぜなにマイクで結構仕事一緒にしてるけど
アイツテレビ無い所じゃあ結構狡猾だぞ、俺も二、三回は訴えられかけた、全部示談にしたけど」
「Oh、プレイボーイ」
「最初は純粋にエロい事しようとしたけど残りは全部冤罪に近い」
「あららーそれは災難だね」
「まぁ生目抜く芸能界で曲がりなりにも飯食っているんだからそれ位の狡猾さは有るよ」
「純粋なうまみちゃんには芸能界は無理だね」
「ははっ、抜かしおる、だがそもそも芸能界自体ヤバいんじゃないかと思えて来た」
「んっ、何で?」
「ここに書いてあるだろ?」

神無月が新聞を見せる、見出しには『ブループロミス被害者アイドルの会設立』と言う記事が有った
内容は『ブループロミスを盛られた結果、心を事務所の良い様に捻じ曲げられた事に対する抗議団体の設立』と言う物であった

「神無月君、これははっきり言って無理でしょ」
「何故そう思うんだ?」
「いや、だってどうやって自分がブループロミスを盛られたって証明するの?普通に精神に異常を起こしたと如何見分けるの?」
「だってこんなにも多くのアイドルが」
「証拠にならないよ、それ」
「・・・ウチに余波来ないだろうか、営業として心配だ」
「大丈夫、最悪でも発売禁止になる程度だよ」
「馬鹿を言うな!!」

突如一人の男が息を荒げてこちらに向かってくる

「俺の作ったブループロミスが何故販売中止にならなくてはならない!?」
「え、誰だアンタ・・・」
「開発部薬品課長だ!!ブループロミスを開発したのは俺だ!!」
「お、落ち着いて下さいよ課長、あくまでも最悪の場合ですよ」
「最悪だぁ!?ブループロミスの何が問題が有るって言うんだ!!」
「課長一回落ち着きましょう、うまみちゃんはブループロミスが悪いとは言っていないのです
世論が如何こう言って問題が起こっているから販売中止になるかもと言っているのです」
「世論なんて騒がせておけ!!むしろ俺に迎合しろ!!」
「ちょ、ちょっと一回落ち着きましょう!!課長!!」
「これが落ち着いて!!」

PLLLLL、PLLLL・・・

携帯電話のコール音が鳴った、課長は自身の携帯電話を手に取り電話に出た

「はい、もしもし!?・・・はい、はい・・・!?嘘でしょう!?い、今行きます!!」

課長は足早にその場を去った

「何だありゃあ・・・」
「さぁ?分からないよ、でも最近のブループロミスの報道で大分参っている様だね
結構野心家だったけど、あんな事を言う人じゃない筈だよ
まぁヒット商品を産むっていう事は多かれ少なかれ人に影響を与える事だし仕方ないね」
「そんなもんかねぇ・・・」

・悲劇の報道

FROM:開発部薬品課
TO:マイク・エンターテイメント・カンパニー本社勤務全職員
本文:我が開発部薬品課の課長が出社して来ないのですが誰か知りませんか?
最近はブループロミス反対の団体などからの脅迫紛いのメールや手紙が殺到している為
何か無いか不安です、何か知っている方は至急返信願います

マイク・エンターテイメント・カンパニー本社勤務の全社員に送付された業務メールより抜粋

ブループロミス開発者行方不明?失踪の謎
マイク・エンターテイメント・カンパニーで奇妙な事件が起こった
ブループロミス開発者が社内から突如失踪すると言う不可解な事件である
開発担当者は何者かから電話で呼び出され無断で早退しそのまま行方不明になったらしい
捜査当局はブループロミスに対し否定的な何者かの関与を念頭に捜査を開始しました-明日新聞より抜粋

ブループロミスと我々のこれからについて
ブループロミス開発者が失踪した事件だが反ブループロミス団体が彼を拉致したと言う考えは短絡的では無いか?
ブループロミスは性欲を無くす薬である、これは未来を消すと言う行為で有ると考える
それもブループロミスを購入出来るのは富裕層などの裕福な者達である
これは優秀な者達が自身の子孫を残せないと言う事である
優秀な者の子が優秀になるとは短絡的な話だが優秀な者では無い者の子が優秀になるよりは現実味が有る
これはブループロミス開発者が罪の意識に囚われて失踪したのではないか-しんぶん赤紙より抜粋

ブループロミス開発者死亡!?
捜査当局は本日未明、一昨日より行方が分からなかったブループロミス開発担当者が死亡したと発表されました
被疑者は開発担当者を殺害した後に自殺を図り死亡したとの事です
被疑者はブループロミスで性欲を奪われた者の一人でそれが動機になっていたようです
詳しい情報はまだ分かっていません-真夜中不二号外より抜粋

ブループロミスについてのご連絡

開発担当者死去によりブループロミスの発売を一時中止致します
ご愛用頂いた方々には大変申し訳ございません

マイク・エンターテイメント・カンパニー公式ホームページより抜粋

・歴史は繰り返し、世は何も変わらない

営業部部長の木曜は会社の自分のオフィスで仕事をしていた

「すみません、木曜部長、少し良いでしょうか?」
「・・・構いませんよ、何の御用件でしょうか?」
「実はブループロミスについて幾つか聞きたい事が有りまして・・・」
「課長殺害事件についてですか?それとも何故ブループロミスの発売中止の方ですか?」
「両方です、薬品課の連中がかなりパニックになっていまして・・・流石に私が止めなければならないでしょう?」
「貴方が人の為に動くとは可笑しい、何か盛られた様ですね」
「いえ、詳しい説明が無ければ開発部を巻き込んで自爆するとまで言ってくるのですよ」
「そうですか、では説明しましょうか」

木曜は那須に向き直った

「まず課長殺人事件からですね、課長殺害後犯人が自殺した程度しか情報が世間に出回っていませんね」
「そこが気になります、犯人が自殺したとか少し都合が良過ぎませんか?」
「もしかしてマイクが消したと思っていますか?全く違いますよ
順を追って解説すると彼が無断早退をしたのは・・・お金持ちの方に呼ばれたのですよ」
「お金持ちの方?」
「とある社長の親戚の方ですね、名前はお教えできませんが、犯人はこのお金持ちの方の娘さんです」
「はぁ・・・それで何で課長はそのお金持ちの方に呼ばれたのですか?」
「課長はブループロミスの普及の為に色々裏から手を回そうとして試供品とかを配っていたらしいのです
それでその配っていた内の一人が課長を呼び出したと言う事です」
「何故ですか?」
「通話記録から『ブループロミスが効かなかった』らしいです」
「欠陥品を掴ませてしまったと言う事ですか?」
「いや、それとは違うみたいです、お金持ちの方には二人娘さんが居て
お姉さんにはキチンと効いたみたいです、妹さんだけが効果現れなかったみたいです」
「・・・お姉さんだけ恋愛してて妹さんは恋愛してないとかじゃなくて?」
「いえ二人共恋愛はしていました」
「・・・うーん・・・対物性愛とかそういう特殊な性癖とか?」
「いえ全く普通の性癖の方です」
「・・・木曜部長、私には分からないです、答えを教えて下さい」
「いえそれが何故効果が無いのか分からないのですよ、服用者にも薬にも異常は見当たらず、何故通じないのか・・・」
「えぇ・・・何ですかそれは・・・」
「服用した妹さん曰く『私達の愛は薬なんかに負けないですわ☆(裏声)』らしいです」
「ちょ、ちょっと待って!!ちょっとふふははっははは!!!」

爆笑し始める那須

「笑い出しても仕方ありませんよね、優秀な科学者の渾身の作品が一人の乙女の恋心に敗れた訳ですから」
「(アンタが裏声何て出すから俺は笑ってんだよ!!)ひひひひひひぅつ!!!」
「まぁそんな事はさておきです、殺したのはその妹さんのお姉さんですね」
「くひひひ・・・マジすかっふふふ・・・」
「そこまで可笑しい話でしたかねぇ・・・」
「ふーふー・・・落ち着いた、でお金持ちの方の娘さんの片割れが課長を殺して自殺と言う事ですか?」
「ええ、課長と自分の父親に何発か銃弾を撃ち込んだ後、自分頭に一発ドスンと」
「父親もですか、まぁ性欲奪った張本人ですから殺されても文句は言えませんね」
「生きてますよ、今はまだ」
「深くは突っ込みませんよ、でも幾ら何でも殺すのは可笑しくないですか?」
「何故?自分の物を奪われて怒るのは道理だと思いますよ?」
「性欲が無くなり、それに対しての自覚症状は無い筈ですよね?もし自覚が有るのなら色々面戸になりますし」
「ええ、まぁそうですね、ですが先日も言った通りにこれは性欲ロボトミーです
ロボトミーを発明したエガス・モニスは患者に銃で撃たれたそうですよ、前例が有る事です
如何やら何を失ったかは分からないですが何かを失った事は分かるらしいですね」
「歴史は繰り返すって事ですかね」
「現在でもロボトミー手術の被害で廃人になった当事者と、その家族たちがエガス・モニスのノーベル生理学・医学賞受賞取り消しのための運動を行っています
我が社にも被害が出なければ良いのですが・・・」
「なるほど・・・被害を受けない為に販売中止ですか?」
「全く持って違いますがそうですよ」
「え」

たっぷりと10秒は静寂がその場を包んだ

「あの・・・如何言う事ですか?」
「対外的には開発担当者死亡の為に、しかし反ブループロミスの方々の被害を受けない為と言うのが裏の理由、しかし本当の理由は違います」
「本当の理由?」
「ええ、単純ですよ、唯単に在庫が無くなりました」
「本当に単純ですね、でも在庫って結構有った筈ですよ?それに生産ラインとかで追加生産も可能な筈」
「予約で一杯です」
「予約?誰の?」
「海外ですよ、海外の・・・何処とは言えませんが性犯罪が多い国の偉い方々が沢山買って行きました」
「性犯罪撲滅に使うって事ですか?でも偉い方と言う事は国では無く個人で購入したと言う事ですよね?それって如何言う事ですか?
国の予算で買えば良いじゃないですか」
「考えても見て下さい、もしも大統領になった時の際に公約として性犯罪率軽減を言って
ブループロミスをバラまけば公約を楽に達成出来ると言う訳ですよ
公約してなかったにしてもイメージが良くなる事は請け合いです」
「なぁるほど、裏からこっそりと販売すると言う事ですね?」
「そう、頃合いを見て国内で再販、まぁ名前は変える必要が有るかもですが・・・
とりあえずこれは秘密の話なので反ブループロミスの方々云々を説明して来て下さい」
「分かりました、じゃあ、これで失礼します」

那須はドアに手をかけた、しかし振り返った

「木曜部長、今思いついたのですが」
「何です?」
「ブループロミスが効かなかった彼女の意見から察するに愛=性欲では無いのかもしれないですね」
「・・・聞きましょう、続けて下さい」
「昔、神愛と言う言葉を耳にしました、何とかと言う学者の愛の六体系だったと思います
それで調べると、利愛や友愛など様々な愛の形が有ります、そしてそれらは性欲の愛も有れば
友の愛と言う物など性欲以外の愛の形が有るのです」
「ジョン・アラン・リーですか・・・それで?」
「・・・終わりです、性欲=愛では無いのでしょうか?と言うだけです
勿論愛=性欲のケースも有るでしょうが」
「・・・・・この薬が若者に盛られ続け、効果が発揮され続けているのは
若者達が囁く愛とやらは全部性欲の変化形と言う事ですね」
「甘酸っぱい青春全否定ですね」

我々が愛を美しく尊い物だと思うのは愛が我々の手元に無いからだ
愛を手に取ってみればそれはそれは汚い物だろう
少なくとも私如きが手にする愛は

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